料理人の料理への向き合い方を知れば、きっと家庭料理ももっと楽しくなる。学び手と伴走するコーチである料理人のインタビュー。今回は、コーチ歴2年のイタリアンシェフ櫻井夢己コーチです。
櫻井夢己(さくらいゆめき)コーチ。1992年生まれ。2013年から東京都内のレストランでイタリア料理を学ぶ。 2017年渡伊し、南イタリア アマルフィで働く。 その後、もっとイタリアを知りたいという気持ちからイタリア全土を周る。 2018年に帰国し、恵比寿のイタリアンレストラン 「sel sal sale(セルサルサーレ)」入店。 現在は同店のスーシェフ(副料理長)を務める。
料理人になった背景を教えてください
僕の場合は、なるしかなかったんです。もともとキックボクシングをやっていて、高校卒業後はプロでやっていくつもりでしたが、卒業する直前に怪我をして、現役復帰を諦めて料理の道に進むことにしました。
キックボクシングをやっていた学生の頃から、自分で料理を作っていました。というのも、減量してるときに食べるご飯って、美味しくないんです。空腹なのに食べる量も限られていて、それが美味しくないともう最悪…。
人体の塩分濃度は約0.9%で、人間が食べておいしいなと感じる塩分濃度が0.7〜1.1%です。ただ、食事制限中はその数値以下にしないと体重は落ちないんですよね。
最初は、自分が食べる減塩ご飯を少しでも美味しく食べたくて料理をしていました。調理学校に行き始めると、同じ0.6%の塩分濃度でもその場で塩を振るんじゃなくて一晩置いておくとか、お肉を柔らかくする火加減や蒸す時間もわかってきて、パサパサの鶏肉がしっとりした美味しい鶏肉になって。ご飯がちょっと美味しくなったんです。
料理を本気でやろうと思ったきっかけはありましたか?
料理に本腰を入れ始めたのは、最初に働いたお店の賄いで作ったペペロンチーノを、料理長にまずいと言われフライパンごと捨てられた時でした。
その時に、この人のペペロンチーノと自分のペペロンチーノは何が違うんだろうと思ってずっと観察したり、いろんな本を読んだりして、自分の中で原因を理解するようにしたんですよね。
料理の原理がわかって、それを実践できたとき、料理長にも認めてもらえて。その時「料理ってめちゃめちゃ楽しい」と思うようになったんです。
それこそキックボクシングと一緒で、いろんなことを試してみないと勝てないから。
食材にも深く興味を持つようになり、卵はどんな成分で、どんなものなんだろうと気になって調べていると、理科や科学の教科書に僕が料理で求めてる知識や答えがあったんですよね。それからは論文まで読んで、科学的な観点から料理を突き詰めていきました。
今のお店「セルサルサーレ」との出会いは?
表参道のレストランで働いている時にたまたま食べに行ったお店がセルサルサーレでした。当時は恵比寿ではなく三軒茶屋の10席くらいの小さな店でしたが、衝撃的なぐらい美味しくて。その場でシェフの濱口さんに「バイトさせてください」と話しかけました。
濱口さんには、料理に対する価値観を変えてもらいました。それまでも美味しいものをお客様に出していた自負はありましたが、その美味しさの追求が浅かった。自分は、何故美味しいかまでを理解して作っていなかったんです。
「この作り方で作ればこの味になるから、これとこれを合わせよう」っていうのがそれまでの料理を作る上での思考だったんですけど、「こういう味にしたいからこれは抜いてみよう」とか「味をクリアにしたいからこうしよう」とか、その美味しさの根本を考えながら料理をしていかなければいけないと教わりました。
美味しいものを作っている気でいたけど全然違ったし、知識も技術も全然浅かったなと知らしめられました。
どんなに斬新で最先鋭のキラキラしている料理も、基礎と古典料理がベースとなっていて「美味しい」にたどり着くためには必要なベースがあるんです。今なお残っている古典料理は単純に誰もが認める美味しさだから残ってるんですよね。
レストランの料理も、何故その料理が存在して、何故美味しいのかを考えて、そこに自分なりのアクセントを入れているだけなんです。
なぜMOMENTコーチをやっているのですか?
コーチングを通して、料理や食への向き合い方を自分なりの言葉でお話しする中で、美味しさのベースをお伝えしたいと思っています。
例えば今、バターチキンカレーで鶏の出汁の部分だけにフォーカスして3回コーチングをしている生徒さんがいます。普通だったら「3回やるなら出汁だけじゃなくて、カレーを簡単に美味しくする方法をたくさん教えて」と思いますよね?でも本当に美味しいバターチキンカレーを作るためには、ベースの出汁を美味しくひくことが肝心なのです。
チキンコンソメが生まれたのは100年以上前ですが今もなお同じやり方で作り続けられているってすごいことです。そのベースから派生してできたのが今の料理なので、その柱を学んでいかないとおそらく何もできないし、美味しくできたとしても小手先の技術でしかありません。
世の中に出回っているレシピではスキップされているような工程を細かく要素に分けて深掘りすることでやっと、仕上がりの味に変化が現れるのです。
僕ら料理人がやっている全ての工程を学ぶ必要はないですが、料理において外してはいけないベースのポイントが分かれば、ご家庭のキッチンでも、レストランの味に近づけることができます。
ご家庭で料理をする人たちが美味しい料理の原理を知っていれば、どんな食材を目の前にしても困ることもなくなるじゃないですか。僕は、各ご家庭のキッチンで本当に美味しいものを作ることができるサポートをしていきたいと思っています。
櫻井コーチのコーチングおすすめ料理例
🍽アーリオ・ オーリオ・ペペロンチーノ🍽
ニンニクの香ばしさと力強さが移った美味しいオイルを楽しむお料理です。
この料理は、ニンニクをコンフィのように低温の油で煮てぎゅっと甘みを引き出したものとニンニクを微塵切りにして、香ばしさを強調したものの2通りの作り方があります。僕が好きなのは、微塵切りにするやり方で、ニンニクの甘さではなく香ばしさを最大限に活用します。ニンニクが黒くなる一歩手前の焦茶色まで炒めて、香ばしさを最大限出したジャンキーでパンチの効いた力強いアーリオ・オーリオを目指しましょう!
🍽だし巻き卵🍽
焼いている時に出汁の美味しい香りがしちゃダメ。それは、出汁が蒸発しているということだから。世界中の卵料理を見ても、水分を加えたのに、蒸すのではなくて水分が飛ぶ、焼くという選択をする料理は殆どない。だからこそ、オムレツとは違う、ふわふわジュワっな食感を追求するべき。この食感は焼きながらも出汁を卵の中に留めたときにだけ得られる。だから、とにかく焼けた卵から出汁が分離する前に巻き込む必要があるんです。
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